後記
この本はかつて私が早稲田大学に修士論文として提出した「わが国軽演劇の形態」を基にして、これに加筆添削を施して全面的に書き改めたものです。この荒筋のようなものが六分通り出来上った三十六年の三月に突然の火災で自宅が半焼、折角苦心して集めた沢山の資料を大部分灰にしてしまいました。同じ項目の中でところにより詳、不詳の差があるのはそのためです。
一時はまったく出版をあきらめたのですが、ともかく現在わかっていることだけでも――と思い直し、不完全なところは承知の上であえて世に問う次第です。
こういった種類の本としては、さきに旗一兵先生の出された「喜劇人回り舞台」がありますが(その節は私もホンのちょっぴりお手伝いをさせていただきました)、その「あとがき」の文中にもある通り、大体大衆演劇に関する確実な資料文献といえるものははなはだ少なく、そういった意味でこの本も記事の裏付けに予想外の日時と苦労を要しました。
が、それにもかかわらず演劇史といえるほどの立派なものに仕立て上げられなかったのは残念です。
そんなわけで、本文中の不詳、不正確については識者・関係者各位の御教示を願えれば大変幸甚です。いずれ他日を期してより一層正確な資料を作る素材に使わせていただきます。さもなくば間違った記事がそのまま末永く活字として残ってしまいますので。
この一文を書き始めようと決心してからすでに二年近くも経ってしまいました。一つには会社の仕事が忙しかったためもありますが、やはり努力が足りなかったようです。恥ずかしく思っております。
なお、河竹繁俊博士からは序文をいただいたのみでなく全般についてあたたかい御指導御教示を賜わりました。
また取材については左記の方々に資料(写真・談話等〉の提供など、いろいろ御協力いただきました。末筆ながら厚く御礼申し上げます。
浅草座 石田守衛 大久保源之亙 尾崎倉三 笠置シヅ子 金井修 如月寛多 木村光子 越路吹雪 酒井俊 清水金一 早大演劇博物館 曾我廼家五一郎 谷幹一 東郷静男 常磐座 富井照三 中村メイコ 中山千夏 旗一兵 花田繁賊(悔沢竜峯)弘田三枝子 不二洋子 藤山竜一 益田喜頓 三鈴恵以子 森赫子 柳家金語楼 山田寿夫
(五十音順・敬称略)
附和三十七年 晩秋
向井爽也